ムカツク・キレルということNo.1

自然医学誌

ノアの方舟(2000年3月号)

ここ数年ほど前から、子供達の行動について「ムカつく・キレる」という言葉で表現されることが多くなりました。ひと頃はよくテレビ等で原因究明や解決策が取沙汰されていましたが、最近やや影を潜めた感があるのは、さほど目新しい話題でもなくなったということでしょうか。

最初このことを耳にした時は、「なぜ今更そんなことを言うのか」と、何かシラけた気分になったものです。なぜなら現代文明の発展を考えるとき、もう二十年も前からこうなることは判っていたはずだと思うからです。

現代文明というのは、総て忍耐力と想像力を削ぐ方向へ進んでいます。便利になるということは、取りも直さず忍耐力を要さないということですし、画像が常に与えられる状況は想像の余地を与えません。

「ムカつく」というのは、本来吐気を催す時に遣われた言葉ですが、これは腹が立つというよりも恐らくもっと低次元での、つまり忍耐力が希薄な為に生ずる怒りのように思えてなりません。

そして「キレる」というのは、「堪忍袋の緒が切れる」の言葉から来ているように一見思えますが、「キレた」と表現されている現象を見てみると、想像力の欠如以外の何物でもないと感じます。ちょっと注意されただけで相手を殺してしまうなぞは、その瞬間の満足のあとにどのような状況が拡がるか、どんな影響が生ずるのかを想像する力に欠けています。

人間の頭脳は超スピードで機能する臓器ですから、良識ある人間なら瞬時にしてそれらの想像が拡がり、どんなに腹が立っても踏み止まるのが普通です。つまり「キレる」というのは堪忍袋などではなく、人としての良心が千切れてしまうことではないかと解釈しています。

* * *

文明の発展を考えただけでも、その中にどっぷりと浸って育った場合は危ないと思っていますが(私はそれを与え過ぎる弊害と呼んでいます)、それだけではなく、食べ物の変化(劣悪化)、親の躾の変化(子供優先)、学校教育の変化(平等意識の履違え)、美意識の変化(日本文化の消失)等を考えた時、現在懸念されている現象は少しも意外な方向ではないと思っています。

よく「人間はそれほど愚かではない、どこかで必ず踏み止まる」という意見も聞きますが、私は人間は愚かだと思います。そういう意味ではとても悲観的です。

例えば日本の全テレビ局が、視聴率偏重をやめて子供達に本当に良いものを与えようと約束(有り得ませんが)したところで、必ずどこかが抜け駆けするでしょうし、地球上の総ての国で核廃絶を取り決めたとしても、これ幸いと核を振りかざす国が出て来るでしょう。

クローン人間だって、今は倫理上の問題でタブー視されていますが、こっそりと研究したがる人はすでに出てきています。

ではどこまで行くのか(発展?するのか)。恐らく止まるところを知らないでしょう。世界中の国が決して原始時代に戻らなかった様に、これからも発展し続けるに違いありません。

ただ、もし踏み止まることがあるとしたら、それは現状に危機感をもち行動を起こした一部の人達が、個人或いはサークル的な形で抗っていくのだと思います。もし地球全体としてそれを期待するならば、旧約聖書にあるノアの方舟の様な現象が、何らかの形で起こる時かも知れません。

そして食べ物に関して言えば、自然医学(食養生)は間違いなくノアの方舟だといえるでしょう。

  

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