これまでの多くのご相談の中で、最も印象に残った忘れ得ぬケースがあります。
それは、今から十数年前、70歳代かと思われるおばあちゃまからのお電話でした。
「血糖値が500(mg/dL)に上がってしまいました。どうしたら良いでしょう?」という内容です。
私は、「危険ですから、すぐに病院へいらして下さい」と即答しました。なぜなら、昏睡におちいる危険性があるからです。
確かに、化学薬剤を投与していない人のほうが食事療法の効果が高く、糖尿病を完治された方もいらっしゃいますが、現代医学の応急処置の技術には素晴らしいものがあります。
かたくなに拒否するのではなく、緊急時にはそうした技術の恩恵を受けて、その後、ご自分なりの健康管理を立て直していただければと思うのです。
ところが、そのおばあちゃまは「病院に行きたくありません・・」と、電話の向こうで泣き出してしまわれました。
そこで、私もおばあちゃまのお気持ちを無視できず、次のことをお願いしました。
・朝食は、摂っても摂らなくても構いません。
・昼食に、オニオンスライスとワカメの二杯酢を作り、気が済むまで食べてください。量は制限いたしません。
・夕食は、和食を普通に召し上がって構いませんが、就寝の3時間前には終わらせてください。
おばあちゃまは、「二杯酢ではなくて、味ポンではだめですか?」とお尋ねになりましたので、「味ポンは、糖と化学調味料が添加してありますのでダメです。お酢とお醤油が半々くらいを目安に、お好みで調整されれば良いと思いますよ」とお答えしました。
それから1週間以内だったと思います。おばあちゃまからお電話をいただきました。
「血糖値が130(mg/dL)に下がりました!」と嬉しそうで、私もホッと胸を撫で下ろしたのでした。
このように書くと「やっぱりタマネギが良いのねー」と言われそうですが、そうでは無く、その時の考えは以下の通りです。
・糖尿病の方は体が酸化されている上にミネラル不足ですから、海藻をシッカリ食べていただきたい。
・高血糖のときは特に酸化が著しく、化学調味料などの酸化要因や砂糖の調理を避けたいので、二杯酢で食べてほしい。
・ワカメだけでは空腹感がつのるので、根菜類を一緒に調理したい。
野菜は根菜類なら何でも良かったのですが、ちょうど新玉ネギの時期で水に晒さないで食べられること、タマネギは酢の物に合うこと、私がタマネギが大好きなこと、という理由で「オニオンスライス」と申し上げたのでした。
恐らく、タマネギの代わりに大根でも、同様の結果が出たと思います。ワカメも、海苔以外の海藻なら何でも良かったのですが、ワカメが最も身近で食べやすく、酢の物に合います。
とっさに思考したこのメニューは、たまたま食事療法の実験になりましたので、色々なweb原稿や情報紙で「高血糖時の緊急食」として執筆しました。
こうしたときは、醤油や酢の「質」は二の次です。普段から天然・熟成の上質な調味料を使っておられれば更に良いと思いますが、緊急時は食事の要点を優先して、細かいことは申し上げないようにしています。