かつて、「カスピ海ヨーグルト」という物が流行ったことがあります。
これは、ある医師の方がコーカサス地方から持ち帰った「グルジア長寿者の飲み物」という触れ込みで販売され始めたものです。
1975(昭和50)年から亡くなる直前(2019年12月)まで長寿者たちの研究を続けてこられた森下博士は、その触れ込みについて手厳しく批判されました。
グルジア、特にコーカサス山脈の長寿村を10回以上も訪れ、しかも毎回、村民と暮らすという感覚で長期滞在を行ってきた森下博士は、事実とかけ離れた情報がビジネスのために利用されることに憤慨されたたようです。
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グルジアの長寿村は、コーカサス山脈南麓の極めて険しい山間へき地に点在しており、食肉用の動物を飼育するような平地は無く、自生の植物や畑の作物で自給自足している。
彼らの1日の食事は、約50%が未精白の穀物、約25%が植物性の副食、残りのほとんどがマツォーニと呼ばれるヨーグルト風の発酵乳で、かの自称「長寿学者」の医師が調査結果と称する「長寿国は羊肉のご馳走だった」というのは、グルジアの首都・トビリシ周辺の小都市で客人をもてなす時のご馳走である。
そして、グルジアのマツォーニは日本の味噌汁のように各家庭で味が違い、店で売られているものも試飲すると1本1本違う味で、カスピ海ヨーグルトとは色、匂い、味ともに全く別物であるから、これをどこから日本に持ち込んだのか、当の本人しか真相は分からない。
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と述べておられます。
なお、日本人で耳にするのは、ヨーグルトは体に良いとか、牛乳は飲まないがヨーグルトは食べる、ヨーグルトを食べないとお腹の調子が悪い、などです。
確かに、ヨーグルトは乳酸菌を混ぜて発酵させていますので、元の牛乳が毒性を含んでいても緩和され、栄養成分の低分子化も進んでいると思われるものの、日本で乳製品が一般に食用とされ始めたのは70年ほど前のことで、浅い歴史しかありません。
日本の食文化には、古くから醗酵食品がきわめて豊富で、和食では優れた醗酵食品を摂る機会が多く、それらと牛乳の発酵食品とで、どちらが日本人の食性に合っているのかは自明です。
また、日本人の体質に合わせるとして、脂質や乳糖を減らすなどの加工乳も開発されていますが、それでなくても自然の生乳とは似て非なる一般の牛乳に、更なる人為的な加工を重ねてまで飲むというのは、とても不自然な気がします。